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「拝啓、」

私は今、とてつもなく動揺している。

手に握られているのは、1通の手紙。

定位置になりつつある机の中に入れられた茶色の封筒は、スマホでメッセージを送り合うことに慣れてしまっている私にとっては、異質なものでしか無かった。

私の名前だけ書かれ差出人がわからない封筒を、赤く錆びついたカッターで開けた。

封筒に書かれた文字しかり、便箋の折り方しかり、差出人は私と違って几帳面な人なんだろうと思いつつ便箋を開いた瞬間。

「・・・? ・・・っ」

最初の文章から衝撃的で、動揺で全身が震えてしまった。

『拝啓、僕は君が好きです。』

その後は、私を好きになったきっかけだとか、魅力的だと思うところだとか、とにかく差出人の私への思いの丈が沢山綴られていた。

でも卑屈な私は、あなたが思うほど私は魅力的じゃないんだよ、と差出人の言葉を否定したい気持ちでいっぱいだった。


#####


「で、差出人が誰かとか気にならないの?」

大学の食堂、向かい側の席で弁当の卵焼きをつまみながら疑問をぶつけてくるのは、違う学部である私の幼馴染み。

「あぁー、差出人が誰かとかスッポリ頭から抜けてたわ」

「アンタ馬鹿なの?まずそこ気にするのが普通だろう」

せっかく美人なのにそんなに口悪いと彼氏に逃げられるぞ、と言いたかったが怒られそうだったのでやめておいた。

大学に入学して半年、昼休みは幼稚園からの幼馴染みと昼食を取るのが日課になっていた。

そして今日の昼休みは、1限目の講義の時に私がいつも座る席に置いてあった手紙の話で持ちきりだった。

「いや、だって内容が衝撃的すぎてさ」

幼馴染みはそんな私の反論を聞かず、私の手の中にあった手紙を奪い取って目を通した。

「でもこんなにアンタのこと知ってるってことは同じ学部の子じゃないの?」

そう言われて同じ教室の男子の顔を思い出してみた。

「・・・いやいや、男子いっぱい居すぎて分からんし!」

「んー?女子って可能性も否定できないぞ?」

「それは絶対ない!」

「分からんよー?」

てゆうか、君いつからそんなキャラになったんだ?!昔そんなキャラじゃなかったろ!彼氏できたらこんな風になるのか!

目の前でニヤつく幼馴染みに、心の中で全力で突っ込んだ。


#####


いつも3限目は眠くなる。

むしろ眠くならない人なんているの?ってレベルで眠い。

あくびを噛み殺しながら、いつもの定位置で始業のベルが鳴るのを待っていると、隣から気配がした。

「隣、いいですか」

恥ずかしいとこ見られたかも!!

咄嗟に振り向くと、額縁眼鏡を掛けた優しい雰囲気の男の子。

あれ、こんな子いたっけ。

男の子は、私の疑問なんか気にせず授業の準備をしていた。

私も準備しないと。

何気なく、彼が開いたノートの中身を見て私は目を疑った。

「ん?」

机の中にあったあの手紙と、彼のノート。

筆跡が一致していた。

「どうかしました?」

彼が、優しげに私を見る。

ああ、貴方か。

「あっ、あのっ!」


fin.

2018.4.8